平成11年式スズキジムニー(JB23W)の電気回路点検(始動、充電回路)にて入庫です。
相談内容としては、通常エンジン始動時には問題ないが、
寒い時の一発目のクランキング時だけが、セルモーターがやや重く感じられるとのこと。
2回目以降のクランキングはスムーズにまわるよう。
今回、相談を受けた時は不具合現象は確認できなかったので、
その点に関しては具体的な話は出来ないのですが、
点検ポイントとしてはセルモーター、バッテリー、オルタネーターと配線系統(リレー等含む)
になり、それにそって点検を実施。
実際のところ、入庫時に不具合内容が確認できないときは、ポイントを絞り、
可能性と消去法にて点検を行うことになります。
点検ポイントと考え方、そして点検の優先順位を考えた場合、
1,バッテリー(充電状況として比重確認、バッテリーチェッカー試験等)
2,オルタネーター(充電量の測定、ファンベルトの具合確認)
3,配線の目視確認(目視にて劣化状況、アースポイントの確認等)
4,セルモーター
となるかと考えます。
寒い日の一発目だけ、セルモーターが弱く回る場合に考えられるのは
バッテリーの始動電流が弱いことがあげられます。
そして2回目以降は通常に回るという条件がつく場合を考えると
外気温が低いとき、最初はエンジン始動負荷がとても強くなっており、
(OIL粘度が高い状態)
そのタイミングで始動するときに始動電流が弱ければ、始動回転も遅くなり、
結果セルモーターが弱く感じられる。
そして一度でもエンジンが回れば、以降はOIL粘度等の負荷は弱くなり、その分
セルモーターへの負荷が減っていきます。
不具合現象が毎度でるわけではないところ見ると、
限界のタイミングの境目で起きている可能性が考えられます。
そこでバッテリーの単体試験が最重要項目となり、
あわせてOILの目視確認も実施することになります。
バッテリー点検はMF(メンテナンスフリー)のため、比重は見られず、
バッテリーチェッカーでの負荷試験のみとなります。
結果、無負荷時12V、負荷時11Vを下回ります。
あきらかにバッテリーの充電状態がよくないことを示しています。
この数値なら、極寒時はセルモーターが弱く回るのは容易に推測が出来ます。
では、バッテリーがダメなのか、そもそも充電量がたりているかの切り分けを行います。
バッテリーの単体試験にて、いったんバッテリーを満充電し再度復活するかどうかを見ます。
充電しておいても、状況が変わらなければ、バッテリーそのものの不具合と判断できます。
バッテリー点検とあわせて、通常は必ず充電量も測定します。
エンジン始動にて、バッテリー電圧が止まっているときよりも高ければ、
とりあえず充電はされていることがわかります。
ここでは、エンジン停止時バッテリー電圧は約12V、エンジン始動後は13.8~14いくかいかない
くらいの表示であり、この時点で充電しているものの、やや充電電圧が低いものと思われます。
電流を見てみると、バッテリー側測定にて、無負荷でも0.4~0.5Aしか流れていません。
バッテリーの状況から考えれば、もっと充電量が高くなければならず、
明らかに充電量(電流)が低いものと思われます。
念のため、電装品の全負荷をかけ、エンジン回転数を2500~3000くらいに設定、
再度、充電量を測定するもそれほどの数値の変化は無し。
結果、オルタネーターの充電量不足と判断が出来ました。
走行距離や年式から推測するに、ブラシの磨耗による電流不足が原因ではないかと思われ、
(電流不足による不具合の原因として、他にはダイオードの破損もあるが、その場合オルタネーターより異音がする)
オルタネーターの不具合となれば、オーバーホールをするのが通常ですが、
最近はリビルト製品がでまわっていて、コストを考えた場合、
オルタネーターの不具合内容から、交換部品にもよりますが、
明らかにリビルト品を使用したほうがいいケースが多いようです。
オーバーホールする場合、特殊なケースで行ったほうがいいのかもしれません。
(たとえば、部分修理にて耐久性を犠牲にしても最低限の機能を優先する場合)
お客様と相談にて、今回はリビルト品を使用することとなり、脱着にて交換作業を実施。
交換後、再度充電量を測定、予めバッテリーは充電しており、
必要電流はそんなに流れないはずであるが、先の測定値よりも高く、
約0.8~1.5~1.8Aと測定できました。
全負荷使用時、アイドリング時はマイナス表示であるものの、
回転数を3000程に上げれば、先とほぼ同程度の数値を記しましたので、
充電量は良好に回復したものと思われます。
リビルト製のオルタネーターを交換した様子。
セルモーターの回転が弱いという、もともとの不具合を直接確認できたわけではないので、
これで直ったとは断言できませんが、少なくとも、充電量は明らかに異常を示しており、
オルタネーター交換後は改善がみれれるため、いったんは様子見となります。
このような点検修理方法が、優先順位にもとずく、消去方法であるということが
お分かりいただけましたでしょうか。
電装整備においては、理論と経験が求められるのはこのような理由や
状況による現場の判断がもとめられるからです。
様々な点検による、測定値から判断するので、
なかなかわかりにくい部分ではありますが。
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